『太陽の塔』

森見登美彦【著】新潮社
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何かしらの点で彼らは根本的に間違っている。なぜなら私が間違っているはずがないからだ、と宣う、ひねくれた学生の夢想を描いたデビュー作。第15回日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作。

しかし痔ごときに気を病んで、遠藤に会話のイニシアティブを取られたとあっては、ご先祖様に顔向けができない。私はともすれば下半身に垂れ下がりそうになる意識を上方へ修正し、遠藤の顔をぎりぎりと睨んだ。
よく考えれば、私がここで卑屈になる必要は何もないのだ。窮地を救われたとは言っても、私が頼んだわけではない。忘れてはならないことだが、相手が感謝してくれることを期待して行う慈善行為は慈善行為とは言えない。もし遠藤が私を救ったことを恩に着せてくるようであれば、人を救うという行為について一席ぶたねばなるまいと考えた。私は絶対に彼に感謝するつもりはなく、その点で彼につけ入る隙を与えなければ、私の優位は保たれるだろうと考えた。