『神樹』

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内容(「BOOK」データベースより)
中国山西省の山村で、樹齢数千年の「神樹」が突然開花した。神樹がよみがえらせた親、子、兄弟や八路軍の亡霊たちは、過去を再現し、語りはじめる。抗日村長を斬り殺した日本軍、神樹に守られた八路軍、土地改革で虐殺された地主、国家規模の“大躍進”・製鉄運動のために餓死し、あるいは生き延びた村人、文革時に失脚した村の書記、宗教結社弾圧に巻き込まれ処刑される娘…、神樹は歴史のすべてを見てきたのだ。開花の奇蹟に御利益を求め人々が押し寄せたため、共産党政府は危機感を覚え、迷信を根絶すると称し、神樹伐採に中央から戦車の大部隊を出動させる。神樹を守るため、村人は亡霊の八路軍に加勢し、戦車隊に立ち向うが…。

amazonレビューより

 この物語の舞台は現代中国の農村「神樹村」である。幹の太さが直径50メートルに及ぶ神樹が花を咲かせるところから物語が始まる。花が咲いて以降、死んでいった村人たちが幽霊となって出現し、過去の権力争いやどろどろした人間模様を語り、再現させていく。社会主義革命での陰惨な流血、大飢饉におけるエピソードはあまりにも強烈であるが、実話に基づいているようである。それは近代中国の歴史に翻弄される人々の姿であろう。
 やがて神樹のもとへ多くの人々が訪れ、神樹村は賑わうが、国家権力は神樹を……もう、これ以上は書かないでおこう。とにかく凄い物語なので、読んで頂きたい。
 著者である鄭義は89年の民主化運動の際に、有力な助言者となり、6月4日「血の日曜日天安門事件以降!、指名手配される。3年間の逃亡生活の後、アメリカに亡命し、「神樹」を書き上げたそうである。
 広告帯には中国版「百年の孤独」とあるが、ぼくは「神樹」のほうが優れていると思う。「神樹」は構築された世界だし、登場人物の掘り下げが素晴らしい。幻想性も重厚さも劣らないし、なにより物語としての盛り上がりと緊迫感で、終盤一気に読ませてしまう。東洋人としての親しみもあるし、読みやすいのも良い (これは翻訳の藤井省三氏の功績だ)。
 鄭義によれば、改革解放後の現代の中国では、経済的矛盾の為に農村での暴動が頻発しているとのこと。「神樹」の物語は、まだ終わっていないし、これから始まるのかもしれない。

神樹
神樹
posted with amazlet on 07.06.26
鄭 義 藤井 省三
朝日新聞社 (1999/09)
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おすすめ度の平均: 5.0
5 とにかく凄い物語。